東京高等裁判所 昭和42年(う)501号 判決
被告人 高位太郎
〔抄 録〕
所論は原判決は、被告人が法定の除外事由がないのに原審相被告人相田直衛または同駒村清と共謀のうえ井上レイ子及び村山ミチ子をバー「きたむら」の接客婦として紹介就業させて、その謝礼金を受領し、もつて有料の職業紹介事業を行うとともに業として他人の就業に介入して利益を得たとの公訴事実につき、その外形事実はほぼ認定しながら、被告人の所為は「いまだもつて業としてこれをなしたものとは認め難く」、また被告人は「相田直衛が業として職業紹介等をなすことを認識して、同人にこれを依頼したものでもないから、同人と本件犯罪行為を共謀したとかまたは同人の犯罪行為に加功したともいえない」として無罪の判決を言い渡したが、いずれも事実を誤認したものであり破棄されるべきであると主張する。
よつて検討するに、北村ヨリは昭和四一年三月一九日ころ石川県輪島市で、接客婦一〇余名を雇入れて大規模なバー「きたむら」を開業したが、すでに前年一二月中、ヨリ夫妻は新潟県長岡市に被告人をたずねて、バー開業を計画中であるから接客婦を世話してくれと頼んだ。被告人とヨリはまたいとこで、被告人は数年前輪島市から長岡市に出て食堂で調理士として働いているところから、ヨリは被告人が職業柄直接または間接に、接客婦となるような女を見つけ出す機会が多かろうと思料して、接客婦の世話を被告人に依頼したのである。そこで被告人は、被告人方食堂へ出入りする露店商相田直衛に頼み、同人らとともに昭和四一年三月に井上レイ子、同年四月に村山ミチ子の二名をそれぞれ北村ヨリの経営するバー「きたむら」に接客婦として世話したのである。しかして村山ミチ子を世話して間もなく事件となつたのであるが、最初被告人がヨリから頼まれたとき、世話しようとした接客婦が二名に限定されていたとは認められない。すなわち、当審証人北村ヨリの供述によれば、同人は被告人には接客婦を一、二名よりもつと多くを世話して欲しいと思つていたことが認められるばかりでなく、当審証人相田直衛の供述によれば、同人は初め被告人から「身内の者が輪島でバーを開くから女の子二、三人世話してくれないか」と頼まれておるのであり、そして井上レイ子を世話した後も被告人から「向うの人も喜んでくれているし、もう一人か二人世話してくれ」と頼まれた事実が認められ、さらに右相田証言及び当審証人駒村清の供述によれば、相田に頼まれて前記二人目の接客婦村山ミチ子を捜し出して連れてきた駒村清と相田及び被告人の三名が、昭和四一年四月一日ころ長岡市の喫茶店一新堂で落ち合つたとき、相田は被告人の前で駒村に対し「このあとなお一人でも二人でも世話してくれ」と頼んだ事実も認められるほか、バー「きたむら」は大規模なもので接客婦も一〇余名いるだけに、一応予定の接客婦を充足したのちも漸次接客婦の出入りのあることは勿論であり、そしてヨリは営業政策上いわゆる「新潟美人」を雇い入れることを希望したのであるが、被告人はその新潟県に将来も居住するものであること及び後記の如く、被告人が不正な手段を講じてまで本件接客婦紹介につき利益を取得した事実等を総合考察すれば、被告人は、バー「きたむら」に限らず、広くどこへでも接客婦を紹介する意思があつたとまではいえないにしても、バー「きたむら」に対しては当初から、前記井上レイ子及び村山ミチ子の二名のほかにも、引き続きなお幾人もの接客婦を紹介就業させる意思すなわち反覆継続して同紹介をなす意思であつたことが認められる。
北村ヨリは井上レイ子及び村山ミチ子の二名分の紹介料等(井上レイ子の前借金三万円を除く)として合計約一〇万円を被告人に送つた。そしてそのうちから被告人や相田直衛、駒村清がそれぞれいくら取得したかは、記録上必ずしも明らかでないが、被告人は少くとも三万円余を取得していると認められるのであつて、その金額も決して少額とはいえないばかりでなく、被告人ら三名は村山ミチ子の紹介にあたり、相談のうえミチ子には前借がないのに、三万円の前借があつたようにし、その前借三万円を被告人が立替えて支払つたとして(被告人は右三万円は家主の小坂井照子から借受けたと主張したが、検察官が当審で提出した小坂井照子の昭和四二年三月二二日付検察官面前調書によれば、照子が被告人に三万円を貸したとの事実は存在しない)、被告人宛の村山ミチ子名義の三万円の借用書(検察官が当審で提出した東京高等裁判所昭和四二年押第二八二号の一)を相田の手で勝手に作成し、同借用書と引きかえに、ミチ子を長岡市へ連れにきたヨリの妹ハルイからミチ子の前借支払金名下に三万円を受取つて、被告人らの報酬としたのである。そして村山ミチ子は一旦バー「きたむら」に赴いたが、偽造の借用証が作成されたことを知り、憤慨して帰つてしまつたのであつて、被告人はヨリに対し多大の迷惑をかけたのである。かかる経緯に徴すれば、被告人とヨリとはまたいとこの間柄にあり、また被告人の妹夫妻も「きたむら」で働いている等の縁故関係はあるが、被告人はいわゆる「親戚間の適当な謝礼」は貰う心積りで本件接客婦を世話しようとしたものではなく、ヨリから話をもちこまれたとはいえ、これをきつかけに積極的に利得目当に接客婦を世話しようと意図したものであることが、十分に窺われるのであり、そしてかように利得目当のものである以上、接客婦紹介が一、二にとどまらず継続的に数多く繰り返えされることがよくその目的に副うものであることはいうをまたない。
原審相被告人相田直衛及び同駒村清は、原判決においても業として接客婦の就業紹介をしたと認定された。しかして露店商たる相田及び駒村の生活環境のほか同人ら及び被告人の三名で村山ミチ子の就業紹介につき前記三万円の借用書を偽造した際等における相田及び駒村の言動、態度に徴すれば、被告人として、相田らが接客婦の就業紹介を業としてなすものであることを感得できなかつたとする事情は発見し難い。
以上いずれよりするも原判決が本件につき被告人を無罪としたのは、事実を誤認したものであり、到底破棄を免れない。
(樋口 関 小川)